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奥会津に伝承される「編み組細工」(訪問調査報告)

日本の伝統工芸を知ることにより、今後のフィリピン・マリナオ村サンラモン地区での活動を進めるための示唆を得ることができるのではとの考えから、日本の農村に伝わる伝統工芸の調査第2弾として、9月下旬に福島県奥会津地方に伝わる編み組細工の現地ヒアリングを行いました。

 

京都から新幹線と在来線を乗り継ぎ5時間半をかけて会津若松に到着、さらにそこから只見線に乗り一時間半、奥会津の会津宮下に着いた時はすっかり暗くなっていました。


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この日は宮下温泉(福島県三島町)にある町営の宿に泊まりましたが、温泉は少し土色をしたお湯でとても身体が温まり、地元の食材を使った料理もとても美味しかったです。

何より翌朝宿の周辺の散歩に出て息を飲んだのは、森木立を流れる只見川の美しさでした。それは、日本に残る奥会津の里山の美しい風景であり、伝統工芸編み組細工が大切に守られてきた地域を一目で理解させてくれるものでした。

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今回、訪問したところは、伝統工芸のものづくりの拠点施設となっている三島町生活工芸館です。ここで、奥会津編み組細工の伝統の作品、伝承されてきた歴史、使われている天然の素材、そして現在の状況と今後の取り組みなどについてお聞きしました。


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次に生活工芸館の方のご案内で、奥会津編み組細工伝統工芸士会会長の青木基重さんのお宅を訪問。伝統の技を拝見しながら、お話を伺いました。

 

【縄文時代から伝わる編み組細工】

現在に継承される編み組細工の中でも、特徴的な「あじろ編み」と呼ばれる技法は、何と同じ技法で編まれているものが縄文時代の集落跡で発見されました。奥会津編み組細工は縄文時代から綿々と伝わる伝統の技だったのです。

 

奥会津は日本でも有数の豪雪地帯で、今でこそ主要道路の除雪が行き届いていますが、昔は12月から4月の雪の季節は住民の人たちはみんな家に籠って暮らしていました。奥会津編み組細工は、そんな農閑期の手仕事として作られたそうです。


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奥会津編み組細工と呼ばれる商品には、使用している素材により3つの作品があります。ヒロロ細工、山ブドウ細工、マタタビ細工と言われる3つの作品ですが、「編み組細工」と同じ名前で呼ばれても、素材の違いによりまったく違った作品の特徴を持っています。

 

【ヒロロ細工】

ヒロロと呼ばれる細い草を綯い縄状にして、その縄を編んで手提げ籠などを作ります。

編み目が細かく、非常に繊細で、編まれた作品は素朴な美しさがありました。大きさにもよりますが、ひとつ作品を編むのに2週間かかるそうです。


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生活工芸館の玄関前に育てている生のヒロロを実際に抜いて拝見しましたが、私には普通の草と区別がつかず、ひ弱そうに見えるヒロロから強い縄が綯いられ、繊細で美しい籠が編まれていることは驚きでした。


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なぜ、ヒロロという草が用いられるようになったかお聞きしたところ、この地方は米作が少なく、藁があまり取れないため、編みの作業を行える他の素材としてヒロロの草が用いられるようになったそうです。

ヒロロの草は9月ごろ刈り取られ、冬の農閑期の仕事として、繊細な作業を農家の女性たちが担ってきました。


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それに対して、男性の仕事として受け継がれてきたのが山ブドウ細工でした。

【山ブドウ細工】

山ブドウのつるは非常に長く10メートルにも成長して、森の木に巻き付いているそうです。それをできるだけ傷めずに切り出すため、持ち手の長さが6メートルもある非常に長い鎌を使って、木の上の方に巻き付いている山ブドウのつるを切り出します。この山ブドウの切り出しは、水分を十分含んだ6月後半の2週間に決めて行うそうです。


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山ブドウ細工の最初の作業は、切り出したつるから外皮を剥ぎ、その外皮を3時間水に浸けます。外皮が柔らかくなった後、内側の柔らかい部分を剥ぎ出して、肉厚の硬い外皮のみにします。これが山ブドウ細工の材料となります。


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この外皮を繊維の目に沿って、正確に8cmの幅に切りそろえて、「編み組」の紐を作っていきます。ひとつの籠を製作するために必要な外皮を作る、ここまでの作業で、二日掛かるそうです。

その後、非常に硬い山ブドウの皮の紐を、隙間を開けることなく、しっかりと編んで籠を作っていきます。ひとつの籠を作る作業に、2週間を要するそうでした。


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伝統工芸士会会長の青木基重さんに、実際に山ブドウの川で籠を編む作業を見せて頂きましたが、硬い皮をしっかりと編み上げていく手さばきには匠の技を感じました。


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こうして編まれた山ブドウの籠などは、非常に強靭で昔から長く山仕事でも使われているとのこと。生活工芸館には、100年前に使われていた山ブドウ編み組細工のかごなどの道具が実際に展示されていました。

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【マタタビ細工】

13メートルに伸びたマタタビの枝を材料として編まれた編み組細工は、水切れがよいとの特長を生かし、ざるなどの炊事用具に多く用いられてきているそうです。穏やかな生成り色のざるは、非常に高い人気だそうです。


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【伝統的工芸品の指定と村の活性化】

三島町の現在の人口は約1,600人、高齢化率が50%を越える、過疎化・高齢化の問題を抱える町です。町を上げて、古くから伝わる編み組細工を積極的に生かして、町の活性化の問題に取り組んできました。

2003年に「日本の伝統工芸品」としての国の指定を受けました。従来「伝統工芸品」の指定は、西陣織など貴族・公家の文化遺産に対してして行われてきましたが、縄文時代から伝承されてきている伝統の技であることを明確に示していくことにより、日本で最初に農民の文化の伝統工芸として指定を受けることができたそうです。

町ではそれをきっかけに、高齢者の生きがい作り、退職後の仕事作りとして「奥会津編み組細工」友の会を立ち上げ、伝統工芸の復活・推進と日本各地への紹介を始めたそうです。現在編み組細工友の会の会員は150名になっているそうです。

お会いした会長の青木さんも60歳までは、学校の校長先生をされていて、退職後編み組細工を学び、80歳になるまで続けていらっしゃいました。


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【若者の参加と他の文化圏との交流】

高齢者の活性化に続き、三島町では都会から若い人たちに移住してきてほしと、編み組細工を通じた取り組みを始めました。2017年に「三島町生活工芸アカデミー」を立ち上げ、1年間かけて農山村の暮らしを体験する中で伝統工芸を学ぶという講座を開設しました。昨年は4人の若者が参加したそうです。その内二人の若者が年間講座終了後も町に定住し、現在伝統工芸の発展に取り組んでいます。


工芸アカデミー

また、毎年6月第2土日曜日に「ふるさと会津工人まつり」を開催し、町の人たちが作った陶器や木工品を含む伝統工芸品を作り手さん自ら販売するイベントを開催しています。今年は、人口1,600人の町に2日間で26,000人が訪れ、大変な賑わいだったそうです。


工人まつり (2)

さらに三島町では近く国立台湾工芸研究発展センターとものづくりに関する友好交流協定を締結することにしており、私が訪問した翌週にも町からミッションが台湾を訪問、翌月には台湾からミッションが町に来訪することになっていました。

町では、台湾の異文化の伝統工芸との交流を通じて、「編み組細工」の新たな伝統工芸の発展を目指しているとのことでした。

 

【アバカ・マクラメ編みの取り組みへの共感】

今回の訪問を通じて、奥会津での伝統工芸「編み組細工」の取り組みが、伝統を大切に守り、若い人たちへの伝承を進め、町の活性化の取り組みにも位置づけ、異文化との交流を通じて更なる発展を目指すなど、私たちのフィリピン・マリナオ村サンラモン集落での取り組みと非常に共通する点があると感じました。

伝統工芸士会会長の青木基重さんも、フェア・プラスの取り組みが同じ方向を目指していることに共感して下さり、何かご一緒にできたらいいですねとお話しして、今回の奥会津三島町の訪問を終わりました。

 

以上

 

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