9月上旬京都府北部の山村上世屋集落を訪問し、村に古くから伝承されてきている藤織りについて調査してきました。
1.上世屋の歴史
上世屋集落は明治4年68軒の家があるすり鉢の底にある集落でした。周辺の田畑を耕し、家の屋根は村の人たちが協力してクマザサを拭いて作られていました。昭和19年の大火災で一度はほとんどの家が消失し、昭和38年の5メートルを超す豪雪により、多くの住民が離村してしまいました。
現在10世帯の人たちが暮らしていますが、多くは他の地域から移住してきた若い人たちで上世屋の復活に取り組んでいます。
1.藤織りの歴史
上世屋の土地は綿花栽培に適さなかったため、周囲の山に群生していた藤の蔓を使い織物を作るようになりました。加えて、村の若い女性は、周囲の町へちり緬奉公に出て、機織りの技術を身に着けて村へ戻ってきていました。藤織りに適した土地だったと言えます。昔から春から秋にかけては農作業をするが、春藤の蔓を切り出し、雪深い冬にみんなで協力して灰汁炊きから始め藤織りを行ってきていました。
一時織物問屋がお茶席用に藤織りの座布団を作り、高値で藤織りの反物を購入したため藤織りが盛んになった時期があったが、その後衰退し、数名のおばあさんが藤織りを続け、伝統を守ってきました。
その後、35年前に藤織り講習会が始められ、当初はおばあさんの作業を横で見ることから藤織りを学び、伝統が受け継がれてきました。
1.藤織りの製作工程
a. 藤織りは春の藤の蔓の切り出しから、灰汁炊き、冷たい川の水であらい、糸を紡ぎ、機織りまで非常に手間のかかる多くの工程を経て作られています。
① フジキリ(藤伐り)
② フジヘギ(藤剥ぎ)
藤の木を木槌で叩いて表皮を剥ぎ、繊維に用いる中皮を採り出す。
③ アクダキ(灰汁炊き)
中皮を水に浸し柔らかくし、木灰汁で炊く。
④ フジコキ(藤こき)
炊きあがった中皮を皮で洗い、コウバシというV字型の金属で扱いて不純物を取り除く。繊維部分のみが残る。
⑤ ノシイレ(のし入れ)
米ぬかを溶かした湯に、藤の繊維を浸し、滑らかにする。繊維がトリートメント効果によりさばきやすくなる。
⑥ フジウミ(藤績み)
結び目を作ることなく、繊維を撚り合わせて績いでいく。(綿花から繊維を引き出していくことを‘’紡ぐ‘’と書くが、藤などの繊維に撚りをかけていくことを“績み”と書く。ここから紡績という言葉が生まれました。)
⑦ ヨリカケ(撚り掛け)
績まれた糸を湯に浸して柔らかくし、糸車で全体に撚りを掛けていく。
⑧ ワクドリ(枠取り)
⑨ ヘバタ(整経)
まかれた糸枠12個をもちいて整経台によって縦糸を決められた本数に整える。
⑩ ハタニオワセル(機上げ)
荒筬を用いてタテ糸を巻いた後、綜絖と筬へ通し、織り付け布に結ぶ。
⑪ ハタオリ(機織り)
4.藤織りの作業を体験
今回特別に藤織りの一部の作業を体験させて頂きました。藤の繊維を米ぬかに浸し、乾燥させた繊維をコウバシというV字型の道具で扱いて米ぬかを落とし滑らかにする作業、
フジウミという繊維を結び目を作ることなく撚り合わせて績いでいく作業、
ヨリカケという績まれた糸を糸車で全体に撚りを掛けていく作業などを体験させて頂きました。
作業は見た目以上に非常に難しく、うまく結び目を作れず何度もやり直すことになってしまいました。ひとつひとつの作業が、時間をかけて習得していく必要があり、作業を行う時には神経を集中することが求められますが、作業を体験させて頂くことにより、繊維の肌さわりを感じられ、繊維が次第に滑らかになっていくことを実感できました。藤織りを知るよい経験になりました。
以上